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教育の五原則
新島学園ファームの意味

学校法人新島学園 理事長 学園長 湯浅康毅


 2021年度新島学園中学校・高等学校同窓会根笹会会報『根笹』発行誠におめでとうございます。昨年に引き続き今年度も学園長を兼務させていただいております湯浅康毅でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 立見会長様はじめ根笹会本部及び各支部の皆様には日頃新島学園へのご協力を賜り、また現在歩んでおります10年ビジョン「NIIJIMAGAKUEN GRAND DESIGN 2027:木を育てる。」に関する事業に対しても引き続きのご理解とご支援を賜り厚くお礼を申し上げます。


 新島学園は様々な意味において激動の第4次中期経営計画が終了し、現在新たな第5次中期経営計画(6年計画)の初年度に入り、新たな執行部体制、事業計画の元、本学の伝統と革新を推進する非常に大切なステージに入っております。事業計画の骨子は70周年記念事業の中でお示しした30年ビジョン「NIIJIMAGAKUEN GRAND DESIGN 2047」の実現を目指しつつ、昨年度より本格的に取り組んでおりますコンプライアンスとガバナンスの強化を踏まえ、激しい時代の変化に対応しながら、更に新島学園らしさを新たにしていく取り組みを積極的に進めております。


 さてこの度は全同窓生の皆様に対してメッセージを述べさせていただきます。「教育の五原則:新島学園ファームの意味」というテーマですが、教育の五原則については勿論聞き覚えがあり、もう一つの新島学園ファームについて、その意味とは一体何?と思われる方もおられるかと思います。

 教育の五原則については在学中お世話になった恩師の姿を通して心に刻み現在自らの精神的な柱にされている方もおられるかと思います。または聞き覚えがあるが在学中は全く意識が無かったと思われる方もおられるでしょう。加えて教育の五原則と掲げながら言っていることとやっていることが違うと疑問を持ちつつ在学された方もおられ、その感じ方はお一人お一人違いがあるかと思います。

かくいう私も在学中は生徒手帳に書いてあるフレーズとしてのみの位置づけと記憶しており、特別学園側が意図的に教育の五原則を具現化する教育を目指していることを感じていたかというと疑問が残ります。

ここで改めて「教育の五原則」をお示ししたいと思います。

◎ キリスト教精神を教育の基とする

◎ 一人ひとりの生徒を愛し、その人格を重んじる

◎ 知識水準を高くし、勉学の喜びを教える

◎ 勤労を尊び、天然資源の利用を学ぶ

◎ 己を知り、国を愛し、隣人に仕え、世界を友とする心を養う

 教育の五原則とは、新島学園の教育理念であり、在学する生徒一人ひとり、保護者、教職員間、そして社会に対して本校が約束することであり、現在でも入学式の時には必ず生徒・保護者の皆様に対して新島学園の誓いをお伝えしております。

 この約束・誓いは初代学校長事務取扱であり、新島学園の原点である安中教会・第7代牧師である江川栄先生により第1回入学式の中で掲げられ、生徒、保護者、教職員、教会関係者、そして神の前で約束した大切な教育理念であります

 新島学園建学時に備えられた「建学の精神」とその理念を実現する「教育の五原則」は本校の根幹を支える言葉であり、過去と現代を繋ぎ、未来を形作っていく上で最も大切な「要石(キーストーン)」たるメッセージであります。

 創立70周年事業では、時代を経て徐々に薄れてしまった「建学の精神」「教育の五原則」の意味と意義を再認識し、再び誇りをもって創立100周年に向かって歩みを新たにする全学的なCI事業として位置付け3か年に亘って取り組み、これが現在歩みを進めております30年ビジョン「NIIJIMAGAKUEN GRAND DESIGN 2047:森を育てる。」事業に、第5次中期経営計画に引き継がれています。


 新型コロナウイルスの影響、幾多の自然災害の発生、様々なソーシャルグッドを脅かす事象等人が人らしく育まれていくには生きづらい、判断しづらい社会に突入しています。かたや国内では人づくり革命、人生100年時代、超スマート時代を象徴するSociety5.0という人間中心の社会の実現に向けて進んでおり、世界的な第4次産業革命下において社会構造の変化のスピードがますます増しています。

 学校現場も度重なる緊急事態宣言、まん延防止等重点措置により授業運営自体に影響を受け、部活動の制限や学校行事の実施が延期続きとなっており、かたや新たな時代の為のICT教育はリアルな教育の代用として活用され、語られることと行われることとの間に溝ができ、実施することが目的化しているアンバランスさを感じております。まさにICT教育を通して実現する新島学園の教育の在り方とは何か?というソフトの部分を熟慮する時間が足りない中で、タブレットやパソコン、それらと連動するための電子黒板や運営システムというハードの導入が起きております。走りながら目の前のことをこなしている対応型の状態が現実として起きています。


 このような中、特によく耳にすることは、小学生は既に授業でタブレットを活用し、公立学校ではGIGAスクール構想の下、ICT化が進む中、私立学校である新島学園こそ先駆けてICT教育の先進校になっているべきでしょう、という声を学園内外からいただくことです。

 半分御尤もなこととして捉えておりますが、もう半分の思いは、果たして新島学園とは私立学校として常に最新の教育環境を追い求めていく学校として存在しているのでしょうか?判断基準が常に他の公立学校や私立学校と比較することを主体的に行う学校で良いのでしょうか?ということです。

 今年出された中央審議会の答申『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~」しかり、これらをそのまま新島学園の教育に活かしていくことが本当に求められているのであれば、建学の精神や教育理念は文部科学省の指針や他校の取り組みをコピーして掲げれば良いだけのことであります。


 ここで大切なことは、学校法人新島学園は「私立学校」という存在であるということです。私立学校とは学校教育法、私立学校法で定められている、国立、公立でない教育機関です。私立学校振興助成法により補助金の交付を受けることから公共性が求められます。

 戦前教育への深い反省に立って、公教育への民間参入の日を持ってより良い教育を行える「自主性」と、そのような教育を行うからこその「公共性」を兼ね備えています。

 私の理解としての私立学校とは、国・県・市・地方公共団体が設置した教育機関ではなく、「人の志」で作った教育機関であることです。また建学の精神・理念が根幹に定められ、設立の趣意によって独自性が本質的に守られている。また私立学校はその独自性である建学の精神、教育方針、教育理念を実現する「自由」が本質的に守られていると認識しております。

 昨今、いたるところで多様性・ダイバーシティという言葉がグローバルスタンダードとして認知され、個々の存在や個性が認められるようになってきましたが、日本における私立学校という存在自体がそもそも多様性・ダイバーシティの象徴であると言えると思います。


 この流れにあって、私立学校の運営に対して常に考慮しなければいけないことは「外部環境変化の理解と主体的な取り組み:理念の具現化」の2点でありバランスが取れた運営が求められます。

 外部環境変化の理解とは、学校教育法・私立学校法によって定められている学校法人として法律に則った運営と同時に時代の変化に対応した運営が求められます。この点が先に触れた文部科学省の指針や他校の事例にあたります。

 一方で主体的な流れとして、建学の精神の実現や特色のある教育を実践する私立学校の独自性が守られていることにより、自らの計画性と実行性を担保した主体的な意思決定が反映される運営を心掛ける必要があります。

 私が現在の立場を担わせていただいている中で強調し、就任以来心掛けてきたことは後者の方です。常に判断基準が上からや横の何かではなく、自らのことは自らが決めることです。この点が私立学校に赦されている「自由」の定義であります。

 外部環境変化を捉えつつ常に我々の建学の精神・教育理念を通して、生徒・学生の成長に寄り添い奉仕するための独自性ある体制をより具体的に構築していくのかが新島学園が今一番問われていることです。


 現在私立学校としての様々な取り組みを試行しておりますが、その一例が新島学園ファームです。

 新島学園ファームの歴史は、第9代校長の市川平治先生の呼びかけによりスタートし、同窓生の農地を無償で提供いただき、奉仕いただく教職員とインターアクト部部員の協力により約10年間全生徒が農業体験を経験してきました。

 この取り組みは、教育の五原則「4.勤労を尊び、天然資源の利用を学ぶ」と謳われていることを具現化した本学の特徴的な学びの在り方の一つであると共に、「1.キリスト教精神を教育の基とする」にも繋がっています。

 70周年記念事業として生まれた「襄出来なっとう・襄出来しょうゆ」まで手掛けることが出来ましたが、2018年度より土地所有者の意向もあり使用出来なくなり、またこれまで新島学園ファームの管理や栽培から収穫に至る作業を担っていただいていた先生方も退職され、担当者不在の状態となり実質取り組み自体が休眠状態に入ってしまいました。

 2019年度に入り、再び新島学園における農場研修の教育的効果や建学の精神に謳われ、私立学校の独自性が問われる中において非常に独創的な取り組みに発展している「新島学園ファーム」の今後について、現11代校長の古畑晶先生の理解もあり、再スタートすることが出来ました。

 いくつか代替地を検討する中、大変ありがたいことに本学の取り組みに理解をいただく近隣の方より、農地提供の申し出をいただくことができました。安中キャンパスから徒歩3分ほどの近さではありますが、該当地は元水田で約10年以上手を加えていない耕作放棄地であり、実際の栽培をするまでには土壌改善を含めた約2000㎡の「土づくり」から始めないといけない状態でした。

 早速この件で地域の農業事務所にも相談しましたが栽培指導方針について違和感を覚え、農業にも詳しい評議員の方に相談したところ近隣で自然栽培・循環型農業を実践し、耕作放棄地の復興を手掛けておられる農家の方をご紹介いただき、その結果、素人集団でも栽培しやすく、土づくりとしても最適な菜種を無農薬無施肥の自然栽培で始めることになりました。実際始めてみると広いスペースでの農作業は初めてのことばかりで、当然ながら栽培上予定通りに進まず、栽培上も危機的状況に陥ることも経験しましたが、菜種と土の底力と太陽の恵みを感じながら、人の輪の大切さを実感いたしました。

 今回この取り組みは「菜の花プロジェクトin新島学園ファーム」と題し、インターアクト部、中学部の生徒、教職員、PTA、同窓会の皆様をはじめ、地域の団体(安中ロータリークラブ)や事業者の協力をいただき、一連の流れを映像に納め、都度公式YouTubeチャンネル、Facebook、Instagram で公開して参りました。多くのメディアにも紹介され、新島学園ファームの取り組みはSDGsの観点からも非常に先進的であると評価をいただいております。

「菜の花プロジェクトin新島学園ファーム」で実現していくことは、教育の五原則を具現化する取り組みであること、「NIIJIMAGAKUEN GRAND DESIGN 2027:木を育てる。」ビジョンを実現していくことの他、新学習指導要領:総合的な探求の時間の中で循環型社会やSDGsについて学ぶことを中心に進め、その他ではバイオ燃料に関する研究、地域飲食店とのコラボレーションによる菜種油活用メニューの開発、礼拝の中で使用するオイルランプ等在校生からのアイディアを活用していく予定です。

 この独自の取り組みを進めていくためには多くの物心両面の支援が必要になります。全ての同窓生の皆様にはこの取り組みの趣旨をご理解いただき、ご協力いただけますようでしたら是非お気持ちを寄せていただけたらと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 今後ICT教育がますます進む中で、指先で触れるものはPC、タブレット、スマートフォン等の人工物が多くなり、命を育む大地との接点がますます乖離していってしまうでしょう。私の立場からすると、ファームの取り組みは対ICT教育として捉えていきたい、人として育まれていくためのバランスを取るための教育として捉えていきたいと願っています。

 新島学園で学ぶからには心と体が一番成長する人生で大切な時にどれだけ多くの良質な経験を学校が提供できるか、No Place like Niijima的な価値を提供できるか、を常に大切にしています。次代を担う若者に対して大人は本当に大切なことを伝える責務があると思っています。教室に詰め込み一方的に情報を伝えること、大人の都合でスケジュール通りに進めることが学校の目的ではないと思っています。コロナ禍において様々な行事が中止・延期される中、教室から飛び出し、太陽の下で新島学園ファームに触れてもらったことが後に良い思い出として生徒の記憶に刻むことが出来たとすれば、関わる者としてこんなに幸せなことは無いと思います。

 新島学園ファームの取り組みはほんの一つの例でしかありませんが、こういった理念から練りだされた独自性、主体性そしてより社会性のある取り組みを今後どれだけ多く生み出していけるかが私立学校の存在意義を決めると確信しています。世の中的なSDGsやESGという概念をただ取り入れることや、狭い地域で横の存在を見て判断している教育をしていたら絶対に生まれない取り組みです。既に創立当時から備えていただいた理念があるからこそ、SDGsやESG的な概念が引き寄せられてきたと理解する方が良いでしょう。自分のことは自分で決め責任をもって実行する。この主体性こそが私立学校の命です。


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 人に限らず様々な命という存在が抜け落ち蔑ろにされてしまいがちな現代です。命とは神から等しく与えられているものであり、それぞれ掛けがえない存在として活かされるよう互いに愛し尊重し合うことが基本にあります。

 新島学園は、人間中心の社会を目指しているという次代に向かって建学の精神と教育の五原則を用いて「いのちの教育」を真剣に取り組んでいかなければいけないと思っております。

 同窓生皆様にとっての母校である新島学園はこれまでの伝統を守りつつ、革新に向けて新たなチャレンジを進めております。そこの中心にあるキーワードは「いのち」です。是非引き続きのご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

 まだまだ感染症の心配が続き、生活も制限を余儀なくされております。くれぐれも体調を崩されませんよう、また安心して対話が出来る日を待ち望みつつ、皆様の心と体の健康が守られますよういつもお祈りしております。

 


新島同窓会報「根笹」

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