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いのちの教育について

学校法人新島学園 理事長 学園長 湯浅康毅


 2022年度新島学園中学校・高等学校同窓会根笹会会報『根笹』発行誠におめでとうございます。昨年に引き続き今年度も学園長を兼務させていただいております湯浅康毅でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 立見会長様はじめ根笹会本部及び各支部の皆様には日頃新島学園へのご協力を賜り誠に有難うございます。


 まずはじめに、いまだ新型コロナウイルスの影響が続く中にあって今年は部活動の活躍が特に目覚ましく、頑張ってこられた生徒一人ひとりに最大の賛辞を送りたいと思います。また生徒の成長に寄り添い支援されておられる先生方に感謝いたします。そして保護者の皆様、いつも応援してくださる同窓会の皆様に心からの御礼を申し上げます。

 現在、新島学園では10年ビジョン「NIIJIMAGAKUEN GRAND DESIGN 2027:木を育てる。」の中の第5次中期経営計画(6年計画)の2年目に入り、伝統と革新を更に推進する非常に大切なステージを歩んでおります。事業計画の骨子は70周年記念事業の中でお示しした30年ビジョン「NIIJIMAGAKUEN GRAND DESIGN 2047」の実現を目指しつつ、一昨年度から本格的に取り組んでおりますコンプライアンスとガバナンスの体制強化を踏まえ、激しい時代の変化に対応しながら、更に新島学園らしさを新たにしていく取り組みを積極的に進めております。

今年は10年ビジョン「NIIJIMAGAKUEN GRAND DESIGN 2027:木を育てる。」の中間地点でもある75周年を迎えております。この時を記念し様々な取り組みを進めております。

 まず70周年記念式典で目標を掲げました学校法人新島学園出資の子会社の設立が無事完了いたしました。設立日は開校記念日と一緒の5月5日になります。社名は株式会社良心舎といたしました。代表取締役は本学校法人の総務企画担当理事である八田祥孝氏(28期)が兼務することとなりました。今後私立学校らしい独自の教育環境を備えるため、また教育現場では積極的に取り組めない事業や地域社会との接点を通して質の高い活きた地域の教育活動へ還元することを実現するため今後更に実働させて参りたいと願っております。

 もう一点が『新島学園ものがたり』という書籍を同じく開校記念日に出版いたしました。著者は同志社大学神学部元教授、現学校法人新島学園理事であり、新島襄研究では第一人者である本井康博先生です。発行は株式会社良心舎です。この『新島学園ものがたり-新島襄の志を受け継ぐ同志たち-』は75周年を記念し出版いたしましたが、今後副教材としても全校で活用すること、そして現在広く同窓生の皆さまにご利用いただいております「みんなの新島学園募金サイト」の返礼品としてもご用意させていただいております。勿論一般向けにも販売しております(税込770円)。本井先生にとっても京都・同志社以外で新島襄をテーマにした外伝版を執筆されるのは今回が初めてとのことですので、是非多くの方にお読みいただきたい一冊です。

新島学園ものがたり/QRコード

 そして70周年の時に結成し、その後定期的に発表の機会を作ってきました「新島学園フィルハーモニーオーケストラプロジェクト」ですが、今年は校歌(作詞:岡部鎗三郎、作曲:黛 敏郎)のオーケストラ用譜面を制作いたしました。こちらを担当いただいたのが中島ノブユキ氏(37期)です。2学期以降練習を重ね、新型コロナウイルスの感染状況を見ながら状況が許せば礼拝堂にてお披露目が出来たらと期待しております。また万一のことも踏まえ、練習風景から実際の演奏風景含め映像で収め、公式YouTubeチャンネルにて公開も予定しております。 また今後の80周年に向けて一昨年から全学的な活動に移行した新島文化研究所においても、本学にとっては勿論、開学の元となる安中教会にとって、そして戦後の日本で宣教活動を通して一生をこの地に捧げられたハーバート・J・ベーケン先生に関連する資料をベ―ケン・鵜㟢惠・ご家族の協力の下、整理を始めさせていただいております。かつて近隣で行われた「幻灯会」上映会開催等同窓生の皆様にもご覧いただける機会も検討しつつ、ベーケン先生の祈りの歴史をしっかり刻んでまいりたいと思います。


 さて昨年は「教育の五原則:新島学園ファームの意味」というテーマで好き勝手な思いをしたためましたが、同窓生の皆様に毎年メッセージをお送りできる機会を与えていただき本当に有難く思っております。
 締め切りぎりぎりにならないと文章のイメージが頭の中に浮かんでこないのでいつも本当に困っていて担当の方にはご迷惑をお掛けしてしまうのですが、これまでは自分のパソコンに向かって原稿を入力するのが常でした。しかし今回の原稿は実は新島学園ファームでの農作業をした後の木陰でiPadに入力したものをお届けしています。
 私は基本的にデスクワークが苦手な人間です。もともと職人が多くいる環境で育てられたので、現場で頭と体と心を動かしていないと本領が発揮できないような気がしています。

新島学園ファーム

 一昨年から教育の五原則を体現する場所として耕作放棄地の土づくりから始めた新島学園ファームでは自然栽培で菜種を育てていますが、今年からは70周年記念事業の時に行った「大豆の栽培プロジェクト」も一部再開しています。

 菜種同様、農薬を使わない土本来の力を活用した自然栽培法で育てているため、特に芽が出てからの除草作業をいかにこまめに行うかでその後の収量に大きな差が出ます。ご指導いただく「菜の花プロジェクトin甘楽」代表の強矢義和さんからは目標収量も宿題としていただいていますし、一緒に作業をしてくれる生徒たちと共に成長を見守り収穫の感謝ができるよう大人の都合で楽をして適当に作業をするわけにもいかず真剣勝負です。夏場は大切な発芽時期でもありますが生徒たちは生憎夏休みになるので一緒に作業をすることもできず一番大事な初期除草作業を行うのは私を含む学園関係の有志の皆さんです。

 夏場日中の作業は熱中症になる確率が高いので日の出前の早朝に作業をするようにしています。早く起床し涼しい中、朝日を背に無心になって作業を行っていると、朝の時間を有効活用できますし、頭の目覚めも良く、一日のバイオリズムも改善し、規則正しい生活が中心になり、これまでの人生で今が一番健康なのでは?と勘違いしてしまっています。と同時に比較的デスクワークが多い日々を過ごしている中で、自然と触れることでバランスが取れ、生態系の一部である人という存在について改めて考える時も与えられています。


 昨年の会報でも触れたとおり、今後ICT教育がますます進む中で、指先で触れるものはPC、タブレット、スマートフォン等の人工物が多くなり、命を育む大地との接点がますます乖離していってしまうこと、この流れの中で新島学園ファームの取り組みは対ICT教育として人として育まれていくためのバランスを取るための教育として捉えていきたいことをお伝えしました。私立学校の大きな特徴である自主性を重んじた新島学園では心と体が一番成長する人生で大切な時にどれだけ多くの良質な経験を学校が提供できるか、No Place like Niijima的な価値を提供できるか、を常に大切にしていること、そして次代を担う若者に対して我々大人は本当に大切なことを伝える責務があると思っています。

 このような中、ただでさえ人の尊厳が軽んじられ虐げられてしまうことを目にすることが多くなっている現代にあって今年の2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻するニュースを目の当たりにしました。このことからすぐ翌日に中高礼拝堂横にある堂塔を平和の象徴であるホワイトカラーに点灯し、いまだに収束が見えない状況ですが毎日平和を祈る光を安中キャンパスから灯し続けてその姿を世界に発信しています。

平和を祈る光(安中キャンパス)

 数万人という表現で幼児を含む多くの民間人が命を落とし、数百万人の避難民を出し、世界中に経済危機の種を蒔いたいまだに終わりが見えない争いを生み出しました。成熟したといわれている人類が過去数えきれないほどの戦を経験し、何世代にわたって憎しみの遺伝子を受け継いでいるにもかかわらず、また戦争の在り方もかつての陸海空の物理的な領土略取を目的とした戦争から、サイバー空間や宇宙空間にまで広がっていく一方、多様化・高度化した戦争は経済的には決してメリットがないことも言われている中にあって、今回のロシアによる侵攻は時代が過去に逆行するような動きを見せており、また隣国においても有事への懸念が高まっている状況もありただただ人類が繰り返す愚かさに対し救いがあることを祈るばかりであります。


 さて新島学園はこのような時代にあって何を信じて何を行っていくべきでしょうか?
 この中でまず心に留めておきたいことは、新島学園を象徴する言葉で「自由」がありますが、私は「自由」とは「自由が赦されている」ことと理解しています。私たちが受け継いでいる理念はここに紐づいています。我々の元となるキリスト教の教えでは「全面受容と問い」があります。これは新島襄が触れたアメリカの会衆派教会から受け継いできている教えですが、神の前にあって全ての人は等しく、性別、肌の色、生まれ、地位や権力、言語等に表面的な差異はあっても本質的にはみな神から与えられた命であり変わりがないことを指します。この考えを元にし、人はどのような立場であっても神は全てを受け入れてくださる「全面受容」という愛を享受しています。一方で神の愛に浸り全面的に受け入れられていることだけで終わりではなく、同時に「いまのあなたはいまのままで良いのですか?」との問いが常にあります。この全面受容と問いの教えに触れることで、決して個人の好き勝手ではない、本当の自由の意味を知ることに繋がっていくと思います。

 これは人だけではなく、皆さんの貴重な青春時代を過ごし人格を形成された新島学園という組織も一緒だと思います。現在教育機関は様々な事情を抱え、改善に向けて取り組みを進めている状況です。新型コロナウイルスの影響もあり少子化の流れが10年前倒しになる中、いち早く影響を受ける本校でも次の歩み方を模索するため抜本的な構造改革を進めている最中です。ただこの中にあって少子化に伴う経済状況であるとか、他校の状況であるとか、世の中で推進しているDX化の流れを偏った判断基準で進めることや、反対に本校の課題の解決だけを目指す狭い範囲での改革は十分気をつけていかなければなりません。キリスト教主義学校である新島学園全体をありのままに受け止めつつ、常に新島学園は今の新島学園のままで良いのか? 新島学園だけが良くなることに心を割いていないか? 反対に悪い状況になることをただ憂いていないか? それよりも次代のために今我々に何ができるのか? 本当に必要なことは何なのか? 我々の使命とは? を常に問うていきたいと思います。


 一つの答えとして来年から「いのちの教育」をスタートしようとしています。サブテーマは「いのちを守り、いのちを活かす教育の推進」です。この取り組みは経営面を担う理事長として、また教学面を担う学園長として推進に向けて全ての責任を負う覚悟で臨みます。

 いのちの教育とは、新島学園が開学以来大切にしてきた良心教育を具現化した取り組みであり、現在歩みを進めております第5次中期経営計画に繋がり、理事長ビジョンであるNo Place like Niijimaに通じ、教育理念である教育の五原則と関係し、建学の精神の実現を目指すための次代の学びの在り方でもあります。

新島学園ファーム

 現在準備を進めておりますが、狭い範囲でなく出来るだけ様々な視点からいのちについて理解を深めるため情報収集を行っております。宗教別、国別での捉え方、日本(群馬県・安中市)での取り組み事例について、専門家からのヒアリング、現地視察等多岐に亘ります。

 こういった様々な視点を通して新島学園としてこれまで行ってきた関連する取り組み事例を確認し、他校を模倣しこなすための行事ではなく、私立学校として建学の精神の実現を達成するために新島学園独自の教育の在り方を目指し、年を追うごとに練られ熟成され、オンリーワンの伝統となるべく育てていきたいと願っています。

 この取り組みを進めていくうえで私個人の考え方・捉え方を述べたいと思います。それはいのちは人だけに与えられているわけではないということです。人は当たり前のように日々暮らしていますが、多くのいのちによって支えられ、補い合い、繋がっているという点を忘れがちだと思います。自らの胃腸でさえ、菌の存在が適正に働かなれば生きていくことさえできない存在です。

 またクリスチャンとしての考え方は、いのちとは神から与えられたものであり、お預かりしているものと考えています。そしてこの世の務めを終える時には神にお返しするものと理解しています。

 一昨年から始めております新島学園ファームの取り組みも実はいのちの教育を進めていくうえで欠かせない存在として考えており、教育理念を具現化する意味も含め先行して始めさせていただいております。

 理事長ビジョンの中の姿勢で「本物・本質主義」を示しております通り、この新島学園オリジナルの教育方針として育てていきたい「いのちの教育」はいのちの源であり、神が人を創造されたとされる「土」から学ぶことを骨子に据えたいと思っています。

 まだまだ感染症の心配が続き、生活も制限を余儀なくされております。くれぐれも体調を崩されませんよう、また安心して対話が出来る日を待ち望みつつ、皆様の心と体の健康が守られますよういつもお祈りしております。


新島同窓会報「根笹」

新島学園中学校・高等学校 新島学園短期大学